Covid-19の渦中で学べる事
サラとジャナがマスクを付け、しっかりとヒジャブを纏って茨城県つくば市に到着したのは、湿度の高い雨の午後のことでした。定期バスが走っている以外はキャンパス内には人の気配が無く、セミの鳴き声だけが響き渡ります。
夏休みである現在、やはり学生の姿はいつもより少ない様子です。今年の梅雨の時期も、Covid-19の影響で多くの学生は外出を控えていました。
「本当につらいわ!」と、例年よりも長引く梅雨の中、サラは怒りを交えながらも笑顔で話します。「自転車で娘を迎えに行かなければいけないんだけど、雨の中親子でレインコートを着てると、とっても暑いんです。」
サラとジャナは博士課程の学生として初めての1学期を終えたばかりですが、リサーチプロジェクトには休みがありません。2人は業務でコンピューターラボを使用していますが、それぞれ違うフロアにいます。建物は、省エネのためにいくつかの照明が消されているますが、サラのラボには明かりが灯されています。
サラのラボでは、2つのコンピューターが向かい合って並んでおり、壁一面学科のリサーチプロジェクト用ポスターで埋め尽くされています。奥の席には、サラの先輩が座っています。先輩に挨拶をし、サラは自分のポスターについて話しを始めました。
「あちらは、私が前回のカンファレンスで使用したものです。」とサラは話します。ポスターには、アフガニスタンにおける干ばつや鉄砲水の影響を受けているブドウ産業の各地域の様子が地図としてカラフルに示されています。さらに、パソコンを開いて、異なる衛星画像を組み合わせて合成図を作る細かい作業や、どのエリアが異常気象に悩まされていてどんな対策をすれば作物の収穫にダメージを与えないかを提案する工程など、自身の作業ついて話してくれました。「ここのコンピューターを使うには、使用時間帯を事前に申請しなければいけません。部屋が小さいので、全ての生徒が一度にここで作業することができないんです。」
「ちなみに、私のラボは1日中解放されています」とジャナは話します。「ラボを使いたいときに申請する必要がありますが、そんなに多くの人は使っていません。」ジャナのラボがサラのラボとどう違うのか見てみようと思い、我々はエレベーターへ向かいました。
現在、筑波大学は他の日本の大学キャンパスと同様、オンライン学習に切り替えています。コンビニエンスストアやコーヒーショップなど多くのキャンパス内施設はまだ営業を続けていますが、授業はリモートで受けなければいけません。
空っぽな教室や休憩室をいくつか見回った後、ジャナのコンピューターラボに到着しました。「これが私のデスクです。」と、ジャナはキャンパスと建物の屋上を見下ろす大きな窓側から机1つ空いた場所にある席を指しました。
彼女のデスクには、彼女が数式を作成したり、「農業成長におけるバングラデシュモデル」という小レポート作成の参考にしたりするために教授からもらった書籍が置いてあります。ジャナは、バングラデシュのじゃがいも産業の発展可能性の詳細を明らかにするためのデータ資料や変数収集に懸命に取り組んでいます。彼女の作った広範なスプレッドシートを使えば、例えば2100年の収穫見込み量を予想することができるそうです。また、ジャナは近々指導教授との面談があると話します。
「今すぐにでもリサーチペーパーに着手したいのですが、結論を出す前にもっと模擬実験を行った方がよいと指導教授に提案されてしまいました。」とジャナは話します。「でも、研究が上手く進んで教授が認めてくれるのを願ってます!」と、FAO(食料農業機関)やBARI(バングラデシュ農業調査機関)から手に入れた、いくつもの数値資料を数えきれないほどのデータセルにまとめ上げたドキュメントを開きながら彼女は話しました。
東京都知事が発した「3密」を避けるため、点検員が乗っているエレベーターを避けながらビルを後にし、カフェが早めに閉店していたので自動販売機で珈琲休憩をしてからバス停に向かいました。休憩中、彼女たちの国ではいまだに女性に対する虐待が続いており、将来は何らかの手助けをしていきたいと話してくれました。その後のキャンパス内ツアーでも、娘たちのお迎え時間まで彼女たちは引き続きその話をしてくれました。
豊かな緑に囲まれたキャンパスの道中や壁沿いには、筑波大学開学の理念である「Imagine the future ~未来を想え」という水色の標識が目に入りました。未来を想像することは常に野心のいることですが、不確かかつ予想もしなかったことが世界で起こっている今年に至っては、特にこの言葉の重要性が身に染みます。困難のあるところには、変革や絶好の機会が訪れてくるものです。サラやジャナが新しい学習様式を受け入れているように、人類が新しい環境に適応し、これまでよりより良く成長していく機会を世界は我々に与えているのかもしれません。